【コラム】自治体がドローン活用するためのポイントと注意点
プロペラを複数回転させて空を飛ぶ「ドローン」が社会に浸透したことにより、最近は「ドローン前提」で社会活動が進むようになりました。テレビ番組やプロモーションビデオではドローンが絶景を映し、建設現場ではドローンが測量をするようになり、災害時にはドローンからの映像が放映されるようになりました。一方で、まだまだ効果のほどが定かでなく「実証実験」として運用されるケースもあります。一例として自治体において地域理解が必要な運用や地域での活用を狙って取り組むケースがあります。弊社もいくつかの自治体とプロジェクトを進めさせていただきましたが、今回は自治体がドローンを効果的に活用するには?というテーマで民間企業の目線で考えていきます。目次【本記事の内容】
- 1.活用の幅は広がり続ける
- 2.波及効果を狙う
- 3.実証実験の始め方
- 4.効果を出すには「長い目」
- 5.ゼロ予算で企業を動かす
- 6.備品登録の落とし穴
- 7.まとめ
活用の幅は広がり続ける
ドローンが最初に浸透した業界は「映像」業界だといわれてます。もともとラジコンヘリでの空撮が行われていたこともあり、「載せる機械を変えるだけ」で現場で使えました。筆者の記憶が正しければ、NHKの朝ドラ「あまちゃん」のオープニングで鉄道を追いかけるシーンで使われていました(ご紹介できそうな動画が見当たらなく残念です)。ブレの少ないドローンのジンバルをフルに活かした映像で、いわれなければあまり気づかない程度ですがこの頃を境に、活用が進み、同時にドローンの性能が日増しに進歩し、今や全方位衝突防止センサーが備えられ、他の航空機の位置情報も得られ、寒ければ自分でバッテリーに蓄熱する「空飛ぶスマートフォン」のごとく優秀な製品が出回っています。こんな安価で高性能な機械を産業界が放って置くわけもなく、ラジコンヘリコプターや航空機の代替手段としてまずは「調査」「測量」「農薬散布」「物資輸送」で活用が始まりました。
4年ほど前の映像です、懐かしいです。配送に関しては技術や運用、法令等の課題がありまだ実用化に至ってないですが、今後に期待です。一方で、「測量」は国土交通省が建設現場のICT化の推進ツールとして取り組んできたため、映像業界の次に浸透しました。もともと航空機による写真測量という技術があったのでその代替手段です。そして昨年あたりから「農薬散布」といった分野で活用が進んでいます。こちらもヘリコプターによる散布が従来から行われていたので、これも代替です。代替による浸透が一巡したあたりから始まるのが「これまで全く投入されなかった分野」です。土木分野なら「橋梁点検」、建築業界なら「屋根点検」「外壁診断」、エンターテイメントなら「ドローンレース」と「カメラを積んで空を飛ぶ」ことで生まれる価値に着目して、実験が進んでいます。課題あるところに「ドローンあり」という印象です。
波及効果を狙う
さて、盛り上がってくると行政としても何か活用を考えることになり「地域課題の解決」や「地域産業分野での活用」を施策として展開していきます。最近だと「果樹への散布」「鳥獣害対策への応用」「作物の生育調査」「苗の運搬」等があり、傾向としては1次産業を対象としたもが目立つ印象です。この分野は新技術導入への障壁等があり民間マターだと浸透しないため、行政側が動く事になります(もちろん自主的に取り組む地域や団体もあります)。実は行政のドローン活用のポイントはこの「民間マターでは進まない」分野への施策になります。例えばここで「農作物を荒らす鳥獣に困っている」というケースを考えます。
地元「見回るにしても追い払うにしもて若い人も少ないし、作業で忙しくて手が回らない。ドローンがそらから飛び回ってなんとかしてくれたらいいのに」
これを実現するには「ドローンを購入して、操縦できるようになる」というステップの前に「そもそも効果があるのか」という課題があります。役に立つか立たないかわからないドローンに数十万円の費用を払うのは現実的には難しいです。また、「ドローンで追い払いします」とサービス提供する企業も見当たりません。企業側としてもこの手合の話は、テストが難しく(地域の協力を得る必要がある)サービス化しにくい分野でもあります。
このような、困っている当事者も動けない、企業側も明確な効果を保証できないというケースにおいて行政が「実証実験」を行い効果が確認されると、地域も企業も実例が確かめられ、地域への波及が期待できます。この誰も確からしい答えを持ち合わせてない、けれど課題があるときこそ「実証実験」の出番です。
実証実験の始め方
さあ、実証実験にフィットしそうなモデルが見つかり自分たちの地域にも課題があってドローンに期待したい、となりました。さて、どうやって次の一歩を踏み出すか。
・自分たちでドローンを買ってトライする(予算確保)
・予算確保して事業委託して進める(何らかの補助事業か交付金の活用)
・企業を上手に動かしてできればゼロ予算でやりたい
という3パターンになると思われます(弊社においても「2」「3」どちらも事例があります)。この場合は課題解決に向き合ってくれる企業とどう出会うか、どう見つけるかが重要でありそこが難しくもあります。よくある例としては
・展示会で出展している企業に話をしてみる
・地元のドローンを扱ってる企業に声を掛けてみる
・周りの誰かに聞いてみる
展示会に出展している企業もさまざまで上場企業もあれば弊社のような零細企業もあります。大手であれば実証実験に慣れているので課題整理から、運用、検証、報告会の実施と担ってくれるため、行政担当者としての安心感は高いです。ただ予算がないと動けないケースもあるので要注意です。ですが、実はこれを予算無しでやる方法がないわけではありません、これついては後述します。一方で展示会のブース一コマの弊社のような零細企業だと、小回りが聞き、仮に予算がいるにしても大手ほどではないため、物理的に行き来が可能な距離感であれば依頼しやすいかもしれません。ただ、大手と違い行政向けソリューションに慣れた人材がいない可能性が高く事業運営においての課題になる可能性があります。そのため行政担当者としては用意できる予算や確保できる人手を勘案しながら判断することになります。相場観のない話なので予算のとり方も難しいかもしれませんが。いずれにせよ相手がいないことには始まらないので、声をかけてみることから始まりますし、自治体からの相談は好意的に対応するケースがほとんどです。弊社も大歓迎です♪
効果を出すには「長い目」
自治体の財政運営上、単年度決算になるため予算化した事業だと年度内に終えることになりますが、ドローンを活用した実証実験の場合、ハード側の改良が必要だったり、地域側の事情だったりであっという間に時間が過ぎます。実験の内容にもよりますが、ある程度のスパンを確保しないと結果の「精度」が落ちてしまい、実証実験の目的でもある波及効果に繋がらなくなります。実際弊社の案件でも東海地方を中心に発生した家畜伝染病「豚コレラ」によりスケジュールの遅延や内容の縮小があり十分な結果を得られなかったケースもあります。特に一次産業での活用となると長期的な視点は欠かせません。そうなると「大学の先生が長期に研究すればいいのでは?」ということにもなりますが、研究スケジュールや興味を持ってもらえるかという点もあり行政側のスケジュールで進まなくなります。これについてもタイミングなので、相談だけでもコンタクトを持てばアドバイス等もらえる可能性が大きいです。弊社案件については大学にはアドバイザーとして参画してもらい進めました。事業スキームに組み込むとなると調整が大変ですが、アドバイザーとして関わってもらう方法もご検討ください。
「ゼロ予算」で企業を動かす?
次に登場するのが前述した「ゼロ予算で企業を動かす」手法です。予算措置を伴わないため年度に縛られず自然体で実証実験を進められるので、いい企業と出会えれば地域課題の解決にもなり、とてもお得な手法です。しかし、ここで企業をゼロ予算で実証実験に参画してもらう時の落とし穴があります。落とし穴の前に、ゼロ予算で企業が動くパターンを紹介します。企業が予算なしで動くモチベーションとしては
・対象となる課題が事業展開したい方向と一致している、が事例が少ない
・実証実験にコミットしていることで宣伝に使いたい
というケースが主です。この時は「予算なしでも協力しますよ」となり、企業側の負担で動き出します。とくに後者で目立つのは「協定を結ぶ」というパターンです。協定の中で活動がある程度定められるケースがほとんどで、実際は若干の報酬(費用弁償程度)が出るケースもありますが、事業委託に比べれば費用は抑えられます
。しかしながら「予算執行」という制約がないのでお互いのモチベーションで活動の成否が左右され、気づいたら活動が停滞して、「地元に期待を持たせてしまったのに企業が動いてくれない。契約してるわけじゃないから強くもいえないけど、上からは進捗を聞かれる・・・」という落とし穴にご注意を。
備品登録の落とし穴
もうひとつの落とし穴です。「そんなに穴を掘るな!」と怒られそうですが、、、。 ドローンを購入するときの話です。「すでに機能面で期待できそうなドローンがあるから購入して使ったほうが、ランニングコストも委託費も削減できるし、これからは職員が自ら使えたほうがいい」ということで購入に踏み切る、というケースもあります。確かに、イニシャルコストの負担で、以降ランニングコストかからないのは魅力です。日程調整も不要です。最近のドローンは安全性も高く練習を積めば容易に動かせる製品も多いです。ここで注意するのは「備品登録」という制度です。おそらく登録後の5年間は処分できない、というケースが多いかと思うのですが、ドローンの補修部品が5年後も供給されるかは未知数です。これまで日本のモノづくり企業は保守部品を5~10年保管することで「安心して使ってもらう」というプレゼンスを発揮してきましたが、ドローンに代表される新興ガジェット企業は「壊れたら新しいのを買ってくれ」というスタンスが強い傾向にあります。ドローン大手DJIも国内に修理拠点はありますが、本国から部品供給がなければ修理できません。製品としての歴史が浅く、そうした保守体制について構築しきれていないのが現状です。なので、「直せれば直せばいいし、ダメならあきらめる」という割り切ったスタンスで購入することをお勧めします。
まとめ
ドローンに対する期待値の高さがある一方で、付き合い方にクセがあり「撮影する」「測る」「運ぶ」という定型の用途から外れると進め方が難しくなります。そもそもドローンでしか解決できない課題なのか、と考え直すケースもあったりしますが、まずは「声をかけてみる」から初めて、活動方法や予算などと折り合いをつけて着地点を見つけることが失敗の少ないドローン政策成功への第一歩だと思います。
(文:櫻井 イラスト:suwa 撮影:サクラボテクノロジーズ)